東京高等裁判所 昭和53年(ツ)36号 判決
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【判旨】
上告代理人の上告理由第一点について
所論は原判決が上告人所有の茨城県稲敷郡牛久町大字桂字六十塚八六番とこれに隣接する被上告人所有の同所八三番の各山林の境界を、附近住民間には山林の境界木として「牛殺し」という喬木を植える慣習があること、原判決添付図面(イ)点および(ロ)点には右両土地の境界についての紛争が顕在化した昭和三〇年八月以前から「牛殺し」が植えられていたことを認定のうえ、これを主たる根拠とし、これに係争山林の占有状況をも加味、参酌しつつ、右両土地の境界を右(イ)点と(ロ)点を直線で結ぶ線と確定したことを非難し、原判決には法律解釈ないし採証法則の誤りがあると主張する。
山林の境界が不明の場合は、山林境界に関する附近の慣習をも斟酌しつつ、境界石、境界木などの存否、地形、地相、植林の有無、その林相、樹令などに示される土地の占有管理状況、公簿面積と実測面積の比較対照、古図面の記載などを総合判断のうえ、その確定がなされるべきであるが、これらの諸事実が矛盾、相反する場合には、事実審裁判所は、判断の法則に反しない限り、これら諸事実を取捨選択し、自らが重きを置く事実に基き境界の確定をなしうるものであり、本件において原審が公簿面積と実測面積の対比、旧公図(乙第九号証)の記載を検討しながら結局これに重きを置かず、前記のような地方の慣習と「牛殺し」の存在を主たる根拠として境界を確定したことは所論指摘のとおりである。
しかし、もともと市街地における宅地の場合と異なり、本件のような山林においては公簿面積自体が正確性を欠くことの多いことからしてそれと実測面積との対比は境界の確定につき必ずしも常に重きを置かねばならないものではないこと、原審の確定したところによると係争土地(原判決添付図面1、2、(ロ)、(イ)、1の各点を直線で結んだ範囲の土地)の面積は約三三平方米で、比較的小面積であること、原審が確定した上告人所有の前記八六番とその西北方に存する同字八四番山林との境界を原判決添付図面2、3の両点を直線で結ぶ線とした上告人と八四番所有者訴外吉田耕平間の合意には被上告人は全く関与していないとの事実からすると、原審が公簿面積と実測面積の対比および旧公図の記載に重きを置かなかつたことは首肯できないわけではなく、また本件証拠を総合すると、原審が前記附近の慣習の存在、前記(イ)点および(ロ)点附近における「牛殺し」の存在を肯認したこと、およびこれらを主たる根拠として前記のように(イ)点と(ロ)点を直線で結ぶ線を八六番と八三番の境界と確定したことは是認することができ、原判決には所論のような違法は存しない。従つて論旨は採用することができない。
同第二点について
所論は原審が原判決添付図面2、3の両点を直線で結ぶ八六番と八四番の境界は被上告人の関与なく、上告人と訴外吉田耕平間の合意で決定されたものであることを理由に前記旧公図記載の地形を八六番と八三番の境界確定根拠として採用しなかつたこと、および八六番と八三番の各北辺、南辺の実測距離が不明であることを理由に右両土地の各北辺、南辺の旧公図上の距離と実測上の距離との対比をなさなかつたことを非難し、そのいずれもが審理不尽に当るというが、前記のように原審確定の八六番と八三番の境界が是認できることおよび本件審理の経過に照らすと、原審における審理に上告人主張のような審理不尽の違法が存するということはできず、論旨は採用することができない。
(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)